『Yamatogawa Riv.』
大和川は奈良県桜井市の源流から奈良盆地、大阪平野を通り大阪市と堺市を隔てる形で大阪湾に流れ込む一級水系であり、古くは古墳時代から治水工事を行っている。
洪水や氾濫を何度も繰り返していたが大規模な付け替え工事等も経て、次第に現在のような穏やかな姿となった。
水田の水として、交通路として、レジャーの場としてあらゆる時代で産業や暮らしと結びつき人々と関わってきた。
その大和川に私が興味を持ったのは、新生活の場所としてこの川の近くに越してきたからだ。
川とそこにいる人々を撮ることが地元を知ることに繋がると考えた。
変わりゆくものもあれば変わらないものもある、歩きながら今見えている大和川の景色を撮りたいと思った。
ある日撮影をしながら歩いていると一人の高齢の女性が目に映り、声をかけた。
話をしてみると、彼女は「ここはほんとうに私の癒しなんです」とゆっくり優しい口調で言っていた。
話をしながら川沿いを少し一緒に歩いた。
昨年、娘に先立たれたことを私に話してくれた。自分も死にたい、とその時は何度も思ったそうだ。
週に数回少し離れた駅から歩いて来ていると言っていたが、娘を想いながらこの川を何度も眺めて少しずつ乗り越えたのだろうか。
癒しという言葉が私にそう思わせた。
その数日後、祖父が亡くなったと母から知らせが来た。
祖父は生前、スーパーの鮮魚加工の職人をしており、子供の頃はよく働いている姿をひとりで見に行った。
大きな魚を素早く捌いたり、水槽を洗ったり、長靴と前掛けをした祖父が格好良かった。
休みの日に釣りや川で遊んだ記憶も懐かしかった。
その川は大和川の支流ではなかったが、川辺を歩いていると何故だかそこへ繋がっているような気がした。
知らない間に、私も川に癒されていたのかもしれない。
ここに来て写真を撮ることも私の中で思い出となり、近くの川から特別な川へ変わってゆく実感がした。
そうして私も大和川の人々となっていった。
当たり前にある自然や生物たち、流れる雲や空の色、変化する街並み、訪れる人びと、それぞれの記憶や想いも含めて全てが歴史には残らない、川の見えない歴史を築いている。
それを私は記録したいと思う。
-2022-